惚れたら負け─お前のこと好きになった─
そんな私の願いなんて届かず、歩いてきた一ノ瀬さんに顔を覗かれてしまった。


「どうした。」


「…何でもないから…。」


「お前、俺に弱み握られたくないとか思ってんだろ。大丈夫だから、話せ。」


何で…心が読まれてるの。


「女嫌いなんでしょ。無理に私に近づかなくて大丈夫だから。」


冷たく言い放てば、関わらなくて済む。


そのはずなのに…


「ごちゃごちゃうるせぇ。何もしねぇから。言えって…。」


彼なりに…心配してくれてるんだろうか…


「…おばあちゃんの形見…無くしたの…」


「どんなやつ?」


「白い猫の編みぐるみ。」


「分かった。」


一ノ瀬さんはそう答えると、真剣な眼差しで教室を出ていった。
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