気だるげオオカミの不器用ないじわる
新谷くんside
☩
☩
─────幼い頃に1番欲しかったのは、誰もが持っていた"普通の感情"だった。
「おまえ、今日から、なんでもやるんだぞ」
5歳で母親が出ていった日、男が笑いながら言った言葉は、今でもたまに耳の奥に響いてくる。
俺の家は普通じゃなかった。
古びたアパート、怖がる母親、そして、当然のように家に居座る2人の男。
「おまえのかあさん、借りた金が返せねえって言うんだよ」
それが男の口ぐせだった。
男にも金がないのか、いつも自分の家のようにどこかへ行っては帰ってくる。
しかも、自分の息子まで俺の家に住まわせていた。
それまでも普通じゃなくなった家が、もっと狂っていったのは、5歳になってしばらくしてからのこと。