気だるげオオカミの不器用ないじわる
耐えきれなくなったのか、母親が家を出ていった。
「ゆうべ、あいつがもう解放してくれってうるさく泣きわめくんだよ。せっかく水商売も取り計らってやったのに、うまくいきもしない、クソ女が」
息を吐くように暴言をついた男が俺を見て笑う。
「だから許してやったんだよ、おまえと引き換えに。おまえのこと好きにしていいらしい」
なに言っても泣くだけの女よりマシだろ、と頭をつかんできた男の笑顔は、今思い返せば、吐き気がするほど気持ち悪いのに、当時5歳の俺には理解できなかった。
母親が自分を捨てたということも、自分はどうするべきなのかも、なにもかもわからなかった。
「俺の息子にしてやる、おまえ、今日から、なんでもするんだぞ」
うん、と無邪気に返事をしたあの時の自分を殴ってやりたい。ほんとにそう思う。