気だるげオオカミの不器用ないじわる
「こいつ!こいつが急に暴れてきて、思うように運転ができなかったんです、本当です!」
「なんだそいつ、息子か?」
ごくり、喉が上下する。
緊張なんてものに縁のなかった俺が、なぜかその質問にだけはそわそわしたのを覚えている。
だけど、
「ちがいますよ!こいつは息子の知り合いで、今日はたまたま家に送ってるだけで、赤の他人です、他人!」
答えは、ただのとってつけたような演技だった。
……あー、そうだよな。他人だよな。
言われてみれば、そのとおりで、それ以外にない。
母親の記憶ですら、部屋の隅でうずくまっている姿だけ。思い出のひとつもないのに、この男なんてなおさらだ。
流行りのおもちゃが欲しくても買ってもらえるのはあいつだけ。
お腹が減っても無条件に用意されたあったかいご飯なんてない。
自分の意見なんてまるっきり通らず、他人のために努力しないといけない。