醒めるな、甘酔い
紙袋を自分の手元に戻そうとする小さな手。それごと掴んで引き寄せてしまえば、呉羽の抵抗が揺らいで、ごくりと喉が上下する。
「壱成…?」
……今、俺はなにを言おうとしてる?
言ったら終わりかもしれない、わかってる。
それなのに、サプライズで渡されたプレゼントに、嬉しさが波のように無限に広がっていく。
数秒だけ我慢して離そうと思っていた決心も、腕のなかにある呉羽の体温に名残惜しさを感じ、失敗に終わる。
もう今、この時を逃したら、一生言えないようなそんな予感がした。
「すきだ」
「…っ」
「すきなんだよ、ずっと」
あぁ、たぶん、今日が幼なじみでいられる最後の日なのかもしれない。
口にしたのは、度数3%の缶ビール半分。
酔いなんて、まだ程遠い。
今日はきっと、酒のせいにもできない。
呉羽はまだなにも言わなくて、背中に回った腕だけが、わずかな期待を起こさせる。
少しくらい、俺にも望み、あるんじゃねーのって。