醒めるな、甘酔い






上がっていた感情がジェットコースターのように落ちていったのは午後3時頃のこと。

次の講義室に入ったところで、俺の列からふたつほど前の席で話している松永と呉羽がいた。


こそこそ話していても、まだ人はそれほど多くはなくて、この距離だと松永のよく通る声くらいは拾えた。



「で、プレゼント渡すの!?」

「う、うん」

「うわー、いいじゃんいいじゃん!」

「朱里ちゃん、しーっ」



聞こえてきた"プレゼント" という単語に、途端に心が萎れていく。

身体中の空気がまるごと奪われたかのように全身から力が抜けていった。


12月28日。

今日はアイツの誕生日。



「あ、壱成」

「え…」



見ないように視線を外していると、やっとこっちに気づいたふたりがピクリと眉を上げる。



「なんか、聞こえた?」

「…なんも」


松永の問いかけに嘘をつくと、隣で呉羽が安堵するように肩を下ろす。


なんなんだよ。

そんで、松永、俺の味方なんじゃなかったのかよ。



思わず文句を溢しそうになるのを堪えて眠い講義をやり過ごす。


ふと窓に目を向けると、徐々に薄暗くなっていく空があった。


それを見て思い出すのは、やっぱり、あの日の出来事。

俺と呉羽が幼なじみとしての一線を超えてしまった日。

それは去年の今日、つまり12月28日のことだった。

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