醒めるな、甘酔い
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「壱成」
その日は朝から大雪で、寒空の下、ろくに上着も羽織らず、トレーナー1枚で俺の住んでいるアパートの前に突っ立っていた呉羽。
その身体は震えという現象を失ったかのように冷えきっていて、俺はすぐさま部屋に入れた。
あるだけの布団で包みこんで、呉羽の好きなミルクティーを入れて、そうして10分ほど経った頃、ようやく頬に色が戻ってきた。
「湊(みなと)、彼女できたんだって」
カタンとコップを置いて呟いた呉羽に、俺は「知ってる」と、ただそれしか言えなかった。
冴木(さえき)湊は大学でも人気のある、いわゆる爽やか青年で、誰とでも打ち解けるアイツに呉羽が惹かれるのも自然な流れだった。
手作りの弁当で気を引こうとする女もいれば、わざと転んで心配してもらおうとする面倒なやつもいるなかで、呉羽はただ真っ直ぐに笑顔で話しかけ続けた。