醒めるな、甘酔い

テレビもついていない。

会話もとくにない。

そんな状態で、次のビールを取りにいこうと立ち上がった時、机についた手が見事に滑った。




「っ…」


体勢が崩れた俺の下敷きになるように呉羽も倒れ込む。

瞬間、雰囲気に呑み込まれるように視線が合って。



「……酔った?」

「…たぶん」


首を傾げた呉羽にそう答えると、小さな手が俺の頬に添えられていた。



「ふふ、」

「……」

「壱成、すき」

「っ、」



なに、言ってんだ。

そう思ったのと同時に、次の言葉が紡がれる。



「湊なんて、きらい」



……あぁ、そういうことかよ。


俺なんて映していない瞳にどうしようもなく腹が立って、気づいたら、手が出ていた。



「っん、……」


唇を押し当てた瞬間、わずかに揺れた瞳も数秒後には受け入れていて。

お互いの吐息が絡んでほんの少し保っていた理性がさらに遠のく。

熱を帯びていく首元に触れた時、このまま帰すという選択肢は自分のなかに現れてもくれなかった。

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