ちひろくんの隠れ愛
「あれ? もしかして、桃瀬?」
うつむいてぐるぐる考えていたら、前から視線を向けてくる男子に話しかけられた。
明らかにわたしに近づいてくる彼をよく見てみるけど………誰だかわからない。
「久しぶりじゃん」
……えっと、昔の知り合いにいたっけ?
名字を知ってるわけだから、さすがに赤の他人ではなさそうだし。でも、思い出そうにも浮かんでこない。
正直に名前を聞こうと顔を上げ、
「なに、もしかして忘れたの? あんなに俺のこと追いかけてたくせに」
──にやり、嫌な笑みが刻まれた瞬間。
「…っ」
わたしの黒歴史が呼び起こされた。
思い出したのと同時に、あぁ…こんな人だったな、と冷静に見据える自分に少し驚く。