ちひろくんの隠れ愛
「覚えてない? 俺に散々喧嘩売ってきたこと」
くすりと笑う声が響く。
「っ、……チッ」
どうやら、ちひろくんのことを思い出したらしい千夏くん。
その顔はみるみるうちに青くなり、数秒後には、ばつの悪そうな顔で奥へ去っていった。
わたしは、その場で固まる。
……喧嘩売ったって、千夏くんが?
ちひろくんに?
あれ、2人はなんで知り合い?
こんがらがる頭を落ちつかせたわたしは、とりあえずちひろくんの方を向いた。
「あ、ありがとう。あの、喧嘩って? ていうか、ちひろくん、千夏くんのこと知ってるの?」
気にさわるようなことを聞いてしまったのか、ちひろくんの表情が曇る。
「…あー、まじでムカつく」
「え…?」
ガシッと腕を掴まれた。
さっき触れられた温度とは違う、わたしの好きな体温に胸が高鳴り、されるがままに外へ出れば、迷いなく進む足が人気のない角へと入っていく。
「ちひろくん、どこ行くの?」
「うるさい」
…えぇ。
うるさいって、、そもそも、流川くんの誕生日会もう絶対はじまってるよ。行かなくていいの?