ちひろくんの隠れ愛
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────時計の針が示すのは、午後4時半ちょっと前。
「遅い」
鋭い目線に思わず背中がピンとなり、静かにドアを閉める。
「ま、まだ3分前…」
「俺が遅いって言ったら遅いの」
反論するも、ピシャリと返され、黙ってしまう。
俺がこうと思ったらこうだみたいな理論は、ちひろくんだから許せる。ちひろくんには、なに言われても逆らえない気がする。そういう独特な雰囲気が彼にはあった。
おとなしく席につくことにしたわたしは、適当にイスを引く。
「そこじゃない」
だけど、どうやら、また不機嫌にさせてしまったみたいで…。
「俺の隣に座れって、いつも言ってるでしょ」
「っ…」
カチ、と合わさった視線にドキッとした。
……だって、ちひろくんの隣は心臓に悪い。
そもそも、生徒会メンバーは他にもいるのに、今日もわたしとちひろくんだけ。
この空気のなか、2人きりなんて……。
「あの、さ……今日は、他の人たちは?」
「全員用事」
「えぇ」
毎回、用事ってありえる?
少なくとも、もう5、6回は集まってる気がするのに。