妖怪の妻になりました
 よもつぐへい、という物語を思い出す。

 冥界の食べ物を食べると、もう現世には戻れない。つまり、冥界に体が馴染むという話だったはず。それが、私の体にも起きるということ?

 唇に手を当てて少し考えると、小さな瞳をこちらに向けた烏天狗さんが続けた。

「一番手っ取り早いのは、妖と交わることだよ」
「……な」

 交わる。まじわる。それはつまり、そういうことか。

 止まりそうな思考を必死で進める。考えてみれば当たり前のことだ。男女で子を成すには、身体を重ねなければならないし。そういう事をすれば当然、彼との繋がりも深くなるだろう。

 考えればわかること、だけど。改めて、私と彼が……そういう、はしたないことをするのだと思うと、じわじわと耳の辺りまで熱が上がるのを感じた。

「あー、君には刺激が強かったかな。ごめん」

 こちらを見て、気まずそうに烏天狗さんが言った。一方で、隣に座っている九尾さんは楽しそうに私にしっぽを擦りつけている。もふもふとした感触は、正直に言うと嫌いではない。

 そんな九尾さんが楽しそうに口を開く。

「へぇ、そこまで大事にされてるんだ。じゃあ、これ以上触ったら青行燈に殺されそう。死なないけど」

 大事に、というのはつまり手を出されていないという意味だろう。確かにそうだ。あの人はいつも、隣合った布団でも私を寝かしつける以外のことはしない。

 それはとても穏やかで素敵な時間だけど、少しだけ寂しくもあって。
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