妖怪の妻になりました
 考え込んでいると、呆れた様子の烏天狗さんが立ち上がり九尾さんの襟首を引っ張った。

「お嫁さんに変なちょっかい出すなよ。あいつは怒らせると面倒なんだから……それじゃ、そろそろおいとまするよ。また」
「良いんですか?」
「うん。あいつ、ここまで来ないとなると律儀に待ってるかもしれないし」

 戸から出ていった烏天狗さんは、片手を上げ微笑む。と思えば、どこからか現れた黒い羽根たちに包まれてあっという間に風と共に消えてしまった。

 それを見て、いたずらっぽく微笑んだ九尾さんは紫の煙を尾から巻き上げる。

「俺も帰る。またね、青いヤツのお嫁さん」

 二人を見送りながら、ぼんやり物思いに耽ける。触れられたいと思っても、彼は私を壊れ物のように扱う。

 そんな小さな寂しさを、打開するきっかけが出来たのかもしれない。私は一人頷いて、青行燈さんが褒めてくれた着物の帯をそっと直した。
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