社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「うちは〝初めて〟じゃけど……さすがに実篤(さねあつ)さんもそうじゃとは思うちょりません。じゃけど……手慣れた風なんはあんまり感じさせられとうないなぁとも思うて。――ワガママ言うてごめんなさい」

 滔々(とうとう)と吐き出されるくるみの本音に、実篤は心臓がキュッと締め付けられるほど彼女のことを愛しいと思った。

 それと同時――。

「あ、あの……くるみちゃん。――キミ、初めて、なん?」

 そこだけはどうしても聞き逃すことが出来なかった。

(あんなに積極的にお膳立てをしてくれたくるみちゃんが初めて? 嘘じゃろ?)

 そう思ってくるみを見つめたら、途端彼女が真っ赤になってうつむいて。

(えっ、マジか)

 実篤(さねあつ)が口を開こうとしたら、くるみが慌てたようにそんな実篤の口に両手を当てて塞いできて、「それ以上言わんでっ?」と真剣な顔で見つめてくる。

 口に添えられたくるみの小さな手が微かに震えているのを感じて、実篤は堪らずくるみをギュッと抱きしめた。


 その瞬間、くるみの腕が緩んだのを合図に、実篤は彼女の耳元に優しく甘くささやく。


「俺がヘタレじゃけぇ、くるみちゃんに無理さしてしもうたね。ホンマごめん。もう(はぁ)大丈夫じゃけ、無理せんでええよ?」

 実篤の言葉に、くるみの身体から力が抜けて……小さくうなずく気配がした。

 実篤はくるみを抱く腕を緩めると、「そうは言うても俺も見ての通りあんましこういうのは慣れちょらんで当てにならんけん。……ふたりで一緒に前に進めていけたら嬉しいな?って思うんじゃけど……どうじゃろ?」とくるみに口付けて。

 くるみはその提案を受け入れます、と意思表示するみたいに実篤の腕をギュッと掴んだ。
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