社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
***

栗野(くりの)さんなんて名前、そんなにないはずなんに、何で気付かんかったんじゃろ」

 ソワソワと眉根を寄せるくるみに、実篤(さねあつ)は「苗字で呼びよぉーらんかったんじゃない?」と助け舟を出してみる。

「うん。向こうも私も下の名前でばっかり呼びよった」

 それに対してくるみは思案するみたいにそうつぶやいて。

それでも(ほいじゃけど)気付かんってうち、抜け過ぎじゃろ」

 としゅんとする。

「くるみちゃん、うちのと仲良かったん?」

 よしよし、と落ち込んだ様子のくるみを撫でながら実篤が問いかけたら、「うん、うちら、よぉ一緒に《《補習》》受ける仲間じゃったけん」と言ってから、ハッとしたように「あっ」と唇を押さえるとか。

 そう言えば鏡花(きょうか)は在学中は補習の常習者だった。

 「お兄ちゃん、勉強教えてぇぇぇ」と泣きつかれた事が何度あっただろう。

 もしかしてくるみちゃんも?と思った実篤だ。

 鏡花(きょうか)は、特に数学が苦手だった。

「ひょっとしてくるみちゃんも数学苦手じゃった?」

 クスクス笑いながら腕の中に閉じ込めたくるみをギュウッと抱きしめて耳元で(ささや)きかけたら、「実篤さんの意地悪っ!」と腰に回された腕で背中をバシッと叩かれた。

(いて)っ」

 その痛みさえ幸せだな、と思った実篤だ。
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