社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
***

「じゃあまた遊びにおいでね」

 食後、「まだいいじゃない」と言い募る鈴子をなだめて、明日はまだくるみちゃんも自分も仕事だからと早々に会合をお開きにした実篤(さねあつ)だ。

「今度広島の家にも遊びに来なさいな(きんちゃいね)

 名残惜(なごりお)しそうにくるみの方を見つめる連史郎(れんしろう)に、実篤は「はいはい、機会があったらね」と答えて。

「馬鹿じゃのぉ、実篤。【お前が】くるみちゃんをうちまで連れて来んといけんのんじゃけ、機会はお前が作るんぞ?」

 とクスクス笑われてしまう。

馬鹿(バッ)

 実篤は内心、(そいじゃあまるで、「くるみちゃんをお嫁さんにすることにしたけん!」と報告に行く感じになるではないかっ)と照れてしまった。

(いや、いずれそうなったら良い(ええ)のぉ〜とは思いよぉーるけどっ)

 さすがに付き合い始めてまだそんなに経っているわけじゃなし。
 気が早すぎるじゃろと思ってみたり。


「今日は本当に(ほんに)ご馳走様でした。凄く(ぶち)美味しいご飯じゃったけぇ【うち】、つい食べ過ぎてしまいました」

 いつの間にか、くるみが家族の前でも自分の前同様〝うち〟と自称するようになってしまったことがちょっぴり寂しかったりする実篤だ。

(くるみちゃぁ〜ん。余り(えっと)【親父に】懐かんちょいて?)

 などと父親限定で思ってしまったのは、くるみが時折連史郎(れんしろう)を見つめてうっとりすることがあるからだ。

 まさかあの強面顔(こわもてがお)相手にヤキモチを妬く日がくるだなんて、実篤は思いもよらなかったのだが。

「くるみちゃんはきっと私と男の人の趣味が似ちょるね」

 母・鈴子がコロコロ笑うのを聞きながら、(何で母さんはヤキモキせんのんよ?)と思ったのは、ここだけの話。
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