社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
 子供の頃から実篤(さねあつ)は、弟や妹とともに空手を習わされたのだけれど、それも商売をやっていれば色々ある。経営者になるならある程度の腕っ節の強さは必要だからというのが理由だったと後で知った。
 家業を継ぐうんぬんは抜きにしても、結局有段者になるまで続けたのは実篤だけ。

 八雲(やくも)飄々(ひょうひょう)とした所のある男だったから、闘いには興味が持てない、やるならスイミングがいいとやめてそちらに流れてしまい、鏡花(きょうか)は好きな男の子から守られる女の子になりたいから強くなるのは困る、どうせなら私はピアノを習いたいとやめてピアノを習い始めてしまった。

 親の思惑なんてお構いなしに自由奔放な振る舞いをする下ふたりの埋め合わせをするように、実篤は結局親が望むように道を歩んでしまった。

 別に不動産業が嫌いだったわけじゃなし。

 これと言ってやりたくて堪らないことも、将来なりたくて仕方なかったものもなかったから成り行きで何となく継いでしまった家業だ。

 だけど、やってみれば案外楽しかったし、父親が「好きにやれ」と早々に引退してくれたのも、ある意味しんどくはあったけど有り難くもあった。
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