社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「お兄ちゃん。とりあえず連絡したら速攻迎えに来られるよう近場で待機ね⁉︎ 寒い冬の夜にか弱い女の子を待たせるとか言語道断なんじゃけぇね?」

 オマケに可愛げのない妹は、当然のようにそう付け加えると、「くるみちゃん、行こっ?」と言って、さっさとくるみの手を引いて行こうとする。

「あ、あのっ、実篤(さねあつ)さんっ」

 鏡花(きょうか)に手を引かれながら、くるみが困ったみたいに眉根を寄せてこちらを振り返ったから、実篤は妹への不満をグッと心の奥底に仕舞い込んで、「俺の事は気にせんと楽しんでおいでね」とくるみに手を振った。

 実篤の言葉に一瞬不安そうな顔をしたくるみだったけれど、すぐさま「美味しいもの、一杯食べて来ますけぇ!」と微笑んでみせる。

 その顔を見て、実篤はくるみが同窓会の葉書を前に『あんまり会いとぉない人』が居ると言っていたのを思い出した。
 確か幹事の一人、鬼塚(おにづか)純平(じゅんぺい)とか言う男だったか。

(そいつと何があったんじゃろ)

 実篤は、今更のように、それを問い詰めなかったことに一抹の不安を覚えて。

(くるみちゃん本人には聞けんかったにしても、鏡花から鬼塚くんとやらがどんな男じゃったんか少しぐらい聞いちょけば良かった)

 そう思ったら、自分の不手際にほとほと嫌気がさした実篤だった。
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