社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
 結局父は母親とふたり、母の生まれ故郷だと言う広島県庄原市(しょうばらし)の方へ引っ越してしまい、高速で2時間程度と、そこそこ近い所にいる割に年に数回程度しか会わなくなってしまった。

 だが、まぁ実篤(さねあつ)も三十路を超えたいい大人だ。

 そうなったところでそれほど不便は感じていない。

 どうしても困ったことがあれば大抵のことは電話で事足りるし、昨今はスマートフォンを介してテレビ電話だって簡単に出来る。

 さすがに父から家業を引き継いで五年以上経った今では分からなくて困ることも起こらなくなった。

 結果、テレビ電話を使うのは仕事とは関係のない他愛のないことばかりがこの所の主流だ。


 先日は捨て子されていたのを拾ったのだと、両親ともに目尻を下げられて、茶トラの仔猫を見せられた。


大豆(ダイズ)って名付けたんよ』

 嬉しそうに言う母に、『父さんはきなこ押しだったんじゃけどな』と父が続けて。

 決め手は仔猫が雄だったから、「○○ 子(ほにゃららこ)ちゃん」を連想させる「きなこ」は却下になったと言うことだった。

(まぁ、きなこの「こ」は「粉」じゃけど)
 などと思ったことは言わずにおいた実篤である。


 実篤の顔が怖いのは、きっと今画面の向こうで目尻を下げまくっている父親に似たからに違いない。
 年齢を重ねて、大分目元にしわが増えて柔らかく見えるようになったとは言え、父親も相当な強面(こわもて)であることに変わりはない。
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