社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
(つれ)ないなぁ、くるみ。僕はあの日キミを逃がしてしまったことをずっと後悔し続けてきたんに」

 不意に手に触れられたくるみは、思わず肩をはねさせて、自分のお皿をガタッと揺らしてしまった。
 くるみの皿の上、中途半端にちぎって食べていたマリトッツォがコロリと転んで、隣のマリトッツォとっくっ付き合って何だか残念な見た目になってしまう。
 でも、テーブルの上や床の上に落とさなかっただけマシかもしれない。

「お陰で僕にとってくるみは唯一忘れられん女の子になってしもうちょるんよ? 責任取ってもらわんと」

 動転しているくるみの様子なんてお構いなし。

 鬼塚がギュッとくるみの手首を握ってきて。

「幸いここはホテルじゃけぇ。あの日し損ねたことをさしてーや? そしたらスパッと忘れてあげられると思うんよ」

 声こそ穏やかだけど、握られた手首の力が強くて全然振り解けそうにない。

 くるみは、早く逃げようとしてお皿を手にしてしまったことを心の底から後悔した。

 すごく怖いし、今すぐ掴まれた手を振り解きたいのに、皿の上の食べ物を落としてしまったら、という思いが自分の動きを制限している。
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