社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
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 さて、かつてはそんな両親と、弟や妹とともに家族五人でワイワイ暮らしていた生家は、今や実篤(さねあつ)ひとりで住まう殺風景なものになってしまっている。

 弟の八雲(やくも)は東京の方の大学に進学したのを機に、就職もあっさりそちらでしてしまった。
 商社マンとかそう言うのになるのかと思いきや、子供の頃に取ったきねづかとでも言うのだろうか。
 大手スポーツジムが経営するスイミングセンターのインストラクターになっている。

 妹の鏡花(きょうか)も、そんなすぐ上の兄をならったように、今では都会の大手銀行に勤めるOLだ。

 ふたりとも盆暮れ正月、山口県(こちら)に戻って来られればいい方で、両親が広島に越してからは下手すると実篤も広島県(あちら)に出向く形でワイワイすることも増えてしまった。

 田舎の大きな家だ。

 会社がある麻里布町(まりふまち)まで車で約40分の由宇町(ゆうまち)に位置している実家は、かつては岩国市ではなく玖珂郡と呼ばれていた場所にある。

 市町村合併で、今でこそまるっと「山口県岩国市」というくくりになってはいるが、旧市内と呼ばれる、合併前から岩国市だった地域と、合併後に岩国市になった地域とでは住んでいる人間側に何となく気持ちの隔たりがあって。

 おぼろげではあるものの、よその地域から岩国市に働きに行っているという感覚が未だに拭えない実篤だ。
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