社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「うん、私は大丈夫。こう見えて割と百戦錬磨じゃけ、何とかなったよ」

 都会での一人暮らし歴も数年ともなると、変な男に絡まれたことだって一度や二度ではない。
 そのたびに何とか一人で切り抜けてきた鏡花(きょうか)だ。

 今回は逆に長兄が近くにいてくれただけ心強かった。

 などということは当然おくびにも出さず、くるみと二人、お互い無事でよかったね、と確認し合ってやっと。

「お兄ちゃん、たまには役に立つじゃん」

 鏡花はツンとした態度で実篤(さねあつ)(ねぎら)った。

「お(まっ)、もっと他に言いよう……っ!」

 当然というべきか。
 鏡花の塩対応に実篤が不満たらたらでブーブー言っているけれど、だからと言って本気で怒っているわけではないのは、雰囲気からしっかり伝わってくる。

(ホンマうちのお兄ちゃんは人が()えんじゃけ)

 さっきまで、貼り付けたようなニコニコ笑顔のくせに、隠し切れない底意地の悪さを感じさせられる鬼塚(あいて)と一緒にいたから余計。

 実篤の裏表のない温かさにホッとした鏡花だ。

(ま、図にのるけん、絶対面と向かっては言うちゃらんけどね)
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