社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「くるみちゃん?」

 実篤(さねあつ)に恐る恐る呼びかけられて、慌てて顔を上げたらポロリと涙がこぼれ落ちた。

「あ、あのっ、これは……」

 恋人になれてたかだか数ヶ月。
 それで結婚を意識して欲しいと思う方が烏滸(おこ)がましい話ではないか。

 ましてや自分は実篤より七つも年下の二十四歳。
 もしかしたら実篤にとって、くるみは結婚対象としては幼く見えているのかも知れない。

 だけど――。

 両親を失って、天涯孤独な身となってしまったくるみにとって、実篤が告げた「婚約者」の言葉はとても大きな意味を持っていたのだ。

(実篤さんと結婚出来たら、うちにもまた家族が出来る?)

 そう思ってしまったから。

 ちょっと前にお食事にお呼ばれした時、栗野家(くりのけ)はとても賑やかで楽しかった。

 自分もその中の一員になれたらどんなにか幸せだろう。

 そんなことを考えてしまった矢先だったから。


「目に、ゴミが入ってしもうただけ……じゃけぇ」

 言ったら実篤にギュッと抱き締められた。

「ねぇ【くるみ】。お願いじゃけ俺の話、最後まで聞いて? 俺、今はまだくるみちゃんにプロポーズとか全然(よぉ)出来んけど……それにはちゃんと理由があってね……」
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