社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「あ、あのっ。うち、実篤(さねあつ)さんと並んで歩きたいんじゃけど……ええでしょうか?」

 結果、現状を打破してくれたのは他ならぬくるみだった。

「あー、やっぱ気付いた? くるみちゃんが兄ちゃんの視線に気付かんかったらこのままって思いよったんじゃけど」

 【わざわざ実篤に視線が向くように仕向けた】くせに、八雲(やくも)が冗談めかしてクスクス笑って。


「あんとな物欲し気な目で見てくるとか卑怯よねぇー?」

 鏡花(きょうか)がわざとらしく実篤をキッと睨んでくる。


 でも二人とも素直にくるみの手を離してくれて、くるみが「有難うございます。ワガママ言うてすみません」と言いながら、実篤の方へ来てくれた。

 そうして実篤の手をギュッと握ると、グイッと自分の方へ引き寄せて耳元に唇を寄せて――。
『ひょっとして、ヤキモチとか妬いてくれたりしましたか?』
 小さな声でそう耳打ちをする。

 告げられたセリフもさることながら、くるみの吐息が耳朶をふぅっと(かす)めたことに、実篤はゾクリと身体を震わせて真っ赤になった。

 嬉しさと照れの余りキャパオーバー。何も言えずに立ち尽くしてしまった実篤に、くるみが「実篤さん、お返事は?」と(うなが)してきて。

 実篤は言葉を返す代わりにくるみの小さな手をギューッと握り返した。


 そうしてポツン、と。

「――お願いじゃけ、俺以外にあんまり懐かんで?」

 聞こえるか聞こえないかの小声でくるみ(ご主人様)にそう懇願(おねだり)した。
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