社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
***
「ホンマ、このクソ忙しい時期に申し訳ない!」
朝礼が終わるなり、「すまんけど今日は夕方に用があるけぇ少し早めに帰らせてもらいたいんじゃけど」と思いっきり頭を下げた実篤に、従業員の皆はいつも実篤がバレンタインデーの日にしたように気遣ってくれる社長だと言う恩義もあってだろう。
「……何を気にしちょってんか知らんですけど、私ら社長が思うちょってよりよっぽど優秀ですけぇね? 社長がちょっとぐらいおらんなったけぇって業務に支障なんてきたしたりせんですけぇ安心して早よぉ帰って下さい。たまにゃあ恩を売らしてもらわんと売られるばかりじゃも気持ち悪いですし。ドーンと来い!です!」
父・連史郎が社長を務めていた頃からクリノ不動産で働いてくれている古参の野田がそう言ったら、他の従業員たちも口々に賛同してくれて。
結果、【昼過ぎ】には事務所から追い立てられてしまった実篤だ。
「いや、俺、ホンマ定時ぐらいまでなら……」
さすがにそれは早すぎるじゃろ?と思って。夕方まではおるよ?と言い募ろうとした実篤に「はぁ!? それじゃあ早よぉ帰る事にならんでしょうが!」とこれまた野田の叱責が飛んできて。
「そうだ! そうだ!」と総務の田岡が野田を援護射撃する形で背中をグイグイ押してきて、予定より半日も早く退社させられてしまった。
*
結局空いた時間で一旦自宅に戻って風呂と着替えを済ませた実篤は、スーツもクリーニング済みのいつもよりフォーマルなものに着替えてから、自宅で待機してくれているはずのくるみに恐る恐る電話を掛けてみたのだけれど――。
「くるみちゃん、予定より大分早いんじゃけど……迎えに行ってもええ?」
その頃には時刻は十五時過ぎを指していた。
くるみは毎朝四時前からパンを焼いたりして仕事を始めている。
移動販売車『くるみの木号』でパンを売り歩いて、パンが売り切れたら店じまい、が基本。
大抵はお昼時が一番の書入れ時で、十四時を過ぎる頃には帰宅しているらしいのだが。
終わり時間が定まっていない分、もしかしたらまだ出先かも?と懸念した実篤の杞憂を吹き飛ばすみたいに『今日はあっという間に売り切れたけぇ、もうバッチリスタンバイOKです!』とくるみの弾んだ声が返る。
本当はくるみとの待ち合わせは十八時だったので、三時間も早く電話を掛けたことになったのだけれど。
くるみはそんな実篤に『約束と違います!』とか不平不満を言うことなく、むしろ大喜びで早めの迎えを歓迎してくれて。
(ホンマ、良い子じゃのぅ)
実篤は改めてそう実感させられる。
くるみは自分にはもったいないぐらい出来た女の子だ。
(ホンマに……そんなくるみちゃんの相手が俺でええんじゃろうか)
ふと不安になって、実篤はポケットの中に入れた小さな箱を握りしめずにはいられない。
今日はホワイトデーだ。
バレンタインデーのチョココロネのお返しに【コレ】は少し重過ぎかもしれない。
でも……。
お日柄だって悪くないし、何だかんだで曖昧に意思表示をしてから三か月近くが経ってしまった。
くるみは同窓会があったあの年末、実篤が結婚を申し込んでくれるのを待っていると話してくれたではないか。
(頑張れ俺!)
今日、実篤はくるみにプロポーズをする予定だ。
時間つぶしも兼ねて、予約したレストラン近くの吉香公園で、梅の花を見ながらやたらソワソワしてしまっていた理由が正にそれなのだけれど……。
ヘタレわんこだって決める時は決める!……はず。
「ホンマ、このクソ忙しい時期に申し訳ない!」
朝礼が終わるなり、「すまんけど今日は夕方に用があるけぇ少し早めに帰らせてもらいたいんじゃけど」と思いっきり頭を下げた実篤に、従業員の皆はいつも実篤がバレンタインデーの日にしたように気遣ってくれる社長だと言う恩義もあってだろう。
「……何を気にしちょってんか知らんですけど、私ら社長が思うちょってよりよっぽど優秀ですけぇね? 社長がちょっとぐらいおらんなったけぇって業務に支障なんてきたしたりせんですけぇ安心して早よぉ帰って下さい。たまにゃあ恩を売らしてもらわんと売られるばかりじゃも気持ち悪いですし。ドーンと来い!です!」
父・連史郎が社長を務めていた頃からクリノ不動産で働いてくれている古参の野田がそう言ったら、他の従業員たちも口々に賛同してくれて。
結果、【昼過ぎ】には事務所から追い立てられてしまった実篤だ。
「いや、俺、ホンマ定時ぐらいまでなら……」
さすがにそれは早すぎるじゃろ?と思って。夕方まではおるよ?と言い募ろうとした実篤に「はぁ!? それじゃあ早よぉ帰る事にならんでしょうが!」とこれまた野田の叱責が飛んできて。
「そうだ! そうだ!」と総務の田岡が野田を援護射撃する形で背中をグイグイ押してきて、予定より半日も早く退社させられてしまった。
*
結局空いた時間で一旦自宅に戻って風呂と着替えを済ませた実篤は、スーツもクリーニング済みのいつもよりフォーマルなものに着替えてから、自宅で待機してくれているはずのくるみに恐る恐る電話を掛けてみたのだけれど――。
「くるみちゃん、予定より大分早いんじゃけど……迎えに行ってもええ?」
その頃には時刻は十五時過ぎを指していた。
くるみは毎朝四時前からパンを焼いたりして仕事を始めている。
移動販売車『くるみの木号』でパンを売り歩いて、パンが売り切れたら店じまい、が基本。
大抵はお昼時が一番の書入れ時で、十四時を過ぎる頃には帰宅しているらしいのだが。
終わり時間が定まっていない分、もしかしたらまだ出先かも?と懸念した実篤の杞憂を吹き飛ばすみたいに『今日はあっという間に売り切れたけぇ、もうバッチリスタンバイOKです!』とくるみの弾んだ声が返る。
本当はくるみとの待ち合わせは十八時だったので、三時間も早く電話を掛けたことになったのだけれど。
くるみはそんな実篤に『約束と違います!』とか不平不満を言うことなく、むしろ大喜びで早めの迎えを歓迎してくれて。
(ホンマ、良い子じゃのぅ)
実篤は改めてそう実感させられる。
くるみは自分にはもったいないぐらい出来た女の子だ。
(ホンマに……そんなくるみちゃんの相手が俺でええんじゃろうか)
ふと不安になって、実篤はポケットの中に入れた小さな箱を握りしめずにはいられない。
今日はホワイトデーだ。
バレンタインデーのチョココロネのお返しに【コレ】は少し重過ぎかもしれない。
でも……。
お日柄だって悪くないし、何だかんだで曖昧に意思表示をしてから三か月近くが経ってしまった。
くるみは同窓会があったあの年末、実篤が結婚を申し込んでくれるのを待っていると話してくれたではないか。
(頑張れ俺!)
今日、実篤はくるみにプロポーズをする予定だ。
時間つぶしも兼ねて、予約したレストラン近くの吉香公園で、梅の花を見ながらやたらソワソワしてしまっていた理由が正にそれなのだけれど……。
ヘタレわんこだって決める時は決める!……はず。