社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
***
実篤はコートの中からお目当てのものを取り出すと、くるみが中腰のままうつむいているのに気が付いた。
(……くるみちゃん?)
まさか自分の行動が彼女をめちゃくちゃ不安にさせてしまっただなんて思いもよらないまま、とりあえず。
くるみに集まった視線を牽制するみたいに睨みをきかせながら席へ戻った。
そうしてくるみのそばまで行くと、そっと彼女の肩に手を載せてくるみを着座させて。
自分はそのまま彼女のそばにひざまずく。
下から見上げたくるみの目からポロリと涙が頬を伝うから。実篤は親指の腹で彼女の涙をそっと拭って「俺の不手際のせいで不安にさせたね。……ホンマこんな時までしまらん男でごめん」と謝った。
「これ、なんじゃけど――」
言って、ぱかりと指輪ケースのふたを開けると、胡乱気な表情で実篤を見詰めるくるみに、ダイヤの付いた婚約指輪を見せる。
「スーツのポケットに入れちょるつもりじゃったんじゃけど……コートの方に入りっぱなしになっちょったんよ」
それを取って来ただけだと示唆してから。
「こんな時までグダグダでカッコ悪うてホンマごめんね。じゃけど……くるみちゃんを思う気持ちだけは誰にも負けんつもりじゃけ。俺、心の底からくるみちゃんと家族になりたいって思うちょるんじゃけど……どうかな? ……なって……くれる?」
情けないほどに心臓がバクバクしているのを感じる。
指輪を差し出している両の手が震えないよう一生懸命力を込めてはいるけれど、その努力がくるみに気付かれていないだろうか?
そんな思いにぐるぐると支配されながら、実篤はうつむいたままのくるみの顔をじっと見上げ続ける。
片ひざをついた、このいかにもプロポーズをしていますと言う王子様然とした自分の格好が、強面な面貌とは余りにも不釣り合いな気がして……今にも顔から火が出そうなぐらい恥ずかしくて。
くるみが実篤の言葉に「はい……、喜んで。よろしくお願いします」とうなずいてくれるまで、実際はほんの数秒だったにも関わらず、走馬灯と言うのはこういう風に瞬時に駆け巡るのだと身をもって実感した実篤だ。
走馬灯を見たと言っても、別に今際の際なわけではないのだけれど、瀕死の状態に近かったことは否めない。
「くるみちゃ……」
ホッと気が抜けて実篤がその場にへたり込んだのと、周りから「わぁー」と言う歓声とともに「おめでとう!」と拍手がわき起こったのとがほぼ同時で。
実篤はどれだけ自分たちがこの店内で目立つ行動をしていたのかを今更のように思い知った。
実篤はコートの中からお目当てのものを取り出すと、くるみが中腰のままうつむいているのに気が付いた。
(……くるみちゃん?)
まさか自分の行動が彼女をめちゃくちゃ不安にさせてしまっただなんて思いもよらないまま、とりあえず。
くるみに集まった視線を牽制するみたいに睨みをきかせながら席へ戻った。
そうしてくるみのそばまで行くと、そっと彼女の肩に手を載せてくるみを着座させて。
自分はそのまま彼女のそばにひざまずく。
下から見上げたくるみの目からポロリと涙が頬を伝うから。実篤は親指の腹で彼女の涙をそっと拭って「俺の不手際のせいで不安にさせたね。……ホンマこんな時までしまらん男でごめん」と謝った。
「これ、なんじゃけど――」
言って、ぱかりと指輪ケースのふたを開けると、胡乱気な表情で実篤を見詰めるくるみに、ダイヤの付いた婚約指輪を見せる。
「スーツのポケットに入れちょるつもりじゃったんじゃけど……コートの方に入りっぱなしになっちょったんよ」
それを取って来ただけだと示唆してから。
「こんな時までグダグダでカッコ悪うてホンマごめんね。じゃけど……くるみちゃんを思う気持ちだけは誰にも負けんつもりじゃけ。俺、心の底からくるみちゃんと家族になりたいって思うちょるんじゃけど……どうかな? ……なって……くれる?」
情けないほどに心臓がバクバクしているのを感じる。
指輪を差し出している両の手が震えないよう一生懸命力を込めてはいるけれど、その努力がくるみに気付かれていないだろうか?
そんな思いにぐるぐると支配されながら、実篤はうつむいたままのくるみの顔をじっと見上げ続ける。
片ひざをついた、このいかにもプロポーズをしていますと言う王子様然とした自分の格好が、強面な面貌とは余りにも不釣り合いな気がして……今にも顔から火が出そうなぐらい恥ずかしくて。
くるみが実篤の言葉に「はい……、喜んで。よろしくお願いします」とうなずいてくれるまで、実際はほんの数秒だったにも関わらず、走馬灯と言うのはこういう風に瞬時に駆け巡るのだと身をもって実感した実篤だ。
走馬灯を見たと言っても、別に今際の際なわけではないのだけれど、瀕死の状態に近かったことは否めない。
「くるみちゃ……」
ホッと気が抜けて実篤がその場にへたり込んだのと、周りから「わぁー」と言う歓声とともに「おめでとう!」と拍手がわき起こったのとがほぼ同時で。
実篤はどれだけ自分たちがこの店内で目立つ行動をしていたのかを今更のように思い知った。