社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
 実篤(さねあつ)同様、目を白黒させながら真っ赤な顔をしたくるみが、それでも嬉しそうに、照れくさそうににっこり微笑むから……。

 実篤はその笑顔に励まされるように立ち上がった。

 店中から寄せられる祝福の声に、仕事で(つちか)った綺麗な所作で一礼すると、実篤は改めてくるみに向き合って。

「くるみ」

 敢えて愛しい恋人の名を呼び捨てにして、そっとくるみの小さな左手を握る。

 実篤がどこかぎこちない様子でくるみの薬指にキラキラ輝くダイヤ付きの婚約指輪をはめている間、くるみはずっと幸せそうに実篤の顔を頬を赤らめながら見つめて――。

 指輪が光る左手を見て、ポロポロと嬉し涙を落とした。

「うち、今日のこと絶対に忘れません」

 泣き笑いをしながらくるみが言うのを見て、「グダグダん所は割愛(かつあい)して……?」と実篤が眉根を寄せるから、くるみはますますとびっきりの笑顔になる。

「実篤さんとじゃったら、絶対【笑いの絶えん】幸せな家庭が作れると思います!」

 そう言って、くるみがすぐそばに立つ実篤にギュッとしがみついた瞬間。

 周りから、更に大きな拍手が巻き起こった。

 実篤の腕に抱かれたくるみはもう、周りからの注目に不安になって泣くことはない。


 そうして今この時から……。
 木下(きのした)くるみは栗野(くりの)実篤の大切な大切なたった一人のフィアンセになった――。
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