社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
 その子を連れているところを何気なく見れば、今までは半ば相手の女性に引っ張られるように付き合っているようにしか見えなかった実篤(さねあつ)が、今回の彼女に対してはやけに積極的に見えたのには連史郎(れんしろう)と二人、目を(みは)らされたものだ。

 確かにお相手の木下(きのした)くるみという女の子。
 末っ()鏡花(きょうか)と同い年で実篤とは七歳差と少し年齢差があるのが気にはなったけれど、とても人懐っこくて器量も飛び切り良いお嬢さんだった。

 この子ったら父親の要領の良さは受け継がなかったのに〝面食い〟のところだけはしっかり受け継いでしまったのね、と溜め息が出そうになって。
(あら私ったら自意識過剰ね)
 と思わず忍び笑いが漏れた鈴子(すずこ)だ。

 実は鈴子。
 今でも十分綺麗な顔立ちをしているけれど、若い頃はミス何とかにアレコレ選ばれるような美貌の持ち主だった。

 だが、その見目麗しさに惹かれてチヤホヤと言い寄ってくる、いわゆる〝イケメン〟と言うものには全く興味が湧かなくて。
 パッと見ムスッとして見えた、他者に言わせれば強面(こわもて)の不動産屋の男に一目惚れしてしまったのだ。

 友人たちからは散々「どうかしてる」と言われた異性の好み。

 鈴子(すずこ)にはとびきりハンサムに見える我が子実篤(さねあつ)も、傍目(はため)には違うのかな?とソワソワして。

 こんな可愛い子が本当にうちの実篤に?と最初こそ疑問符満載だった鈴子だったけれど、自分が愛してやまない連史郎(れんしろう)を「かっこいい」と言ってくれた時点で、内心「この子、いいわ!」とガッツポーズをしたのだ。

 なかなか人様に理解してもらえない男性の好みを共有できる女の子。

 年の差なんて吹っ飛ばしてどうか末永くうちの実篤(むすこ)と一緒にいてくれたらと(こいねが)ってしまった。

 何せ、好みの男性のタイプが似通った女の子だ。嫁姑になったとしても絶対に話が合うに違いないし、鈴子としてもこの子が嫁いできてくれたらいいなと漠然と思ったりしていたのだけれど。

(さすがにくるみちゃんの存在を知って三ヶ月! ヘタレ実篤のくせに急展開過ぎてついていけませんよ、お母さんは!)

 あの実篤が、彼女にプロポーズをしたとあっては一大事以外の何物でもないではないか。
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