社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
***

 そんなこんなで電話の向こう。
 両親がわちゃわちゃしてしまうのも無理はないのだが、実篤(さねあつ)としては自分がそこまで彼らに心配されているだなんて思っていない。
 それで必然的。双方の間にはどうしたって温度差(ズレ)が生じて――。

「なぁ、母さんっ! そんな(そんと)に慌てんでもまた日ぃ改めてくるみちゃんと広島(そっち)行くけん! ――おーい! 聞こえちょるかー!? ……だから(ほいじゃけぇ)ねっ、別に今すぐ親父と変わらんでもええんじゃけど……!」

 ちょっと声を大きめにして。母親が受話器を耳に当てていなくても聞こえるよう(わめ)いてみた実篤だったのだけれど。

『おお! 実篤かぁっ! お前、くるみちゃんに結婚申し込んだっちゅーんはホンマかぁ⁉︎』

 声を張り上げている実篤の声をかき消さんばかりの大声でいきなり。父・連史郎(れんしろう)が応答してきたから、耳がキーンとなってしまった。

「ちょっ、親父! 声デケぇわ!」

 無意識にスマートフォンを耳から遠ざけながら言ったら、『お前じゃって今、凄い(ぶち)デカイ声で叫びよっじゃろーに。わしだけ責めるんはおかしいで?』とか至極もっともな抗議をされてしまう。

「あ、あれは――母さんが受話器持っちょらんって思うたけん」

 言ったら、『代わりにわしが持っちょったわ』とか……。さすがの実篤(さねあつ)も、正直知るか!と悪態をつきたくなった。


それで(ほいで)?』

「は?」

『じゃけえ……くるみちゃんからOKもらえたんかどうじゃったんか?っちゅー話よ』

 ぼぉーっとしてからに、とブツブツ言い募る連史郎(れんしろう)に、そう言えば肝心なそこについて話す前に母親がざわついたんだったと思い至った実篤は、無意識に吐息を落とした。

なぁ(のぅ)、実篤。……やっぱり……ダメじゃったんか』

 途端電話口から父親の意気消沈した声が聞こえてきて。
 実篤は慌てて首を振る。

「ちょっ。やっぱりって(なん)!? バッチリOKもらえたけん! 大丈夫じゃけぇ!」

 (そもそもダメなんいちいち連絡せんし。さっきじゃってくるみちゃんと会いに行く算段について叫んどったじゃろ、俺……)などと思った実篤だったのだけれど。


そうかそうか(ほーかほーか)。大丈夫じゃったんか。()かったのぉ。――それで(ほいで)?』
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