社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
12-1.嵐の前の静けさ*
四月の終わり。
キッチンで二人、朝食の支度をしながら実篤はすぐ横に立つくるみに声を掛けた。
「生クリームは無理でもホイップクリームなら常温でも割と大丈夫そうよね」
今朝はくるみが持ってきてくれたブリオッシュをサンドイッチにして食べようと言う算段になっている。
具材は卵やハムやチーズなどアレコレ用意してあったけれど、手始めにオーソドックスなクリームたっぷりのマリトッツォにチャレンジしてみたいと思ったのは当然と言えた。
普通のパンより砂糖や卵の割合が多い、フランスではリッチな菓子パンとして扱われるブリオッシュで出来たマリトッツォを、くるみは同窓会の席で試食して帰って以来アレコレと試行錯誤の真っ最中。
「何かうちの実験に付き合わせるみたいになってしもうてごめんなさい」
コロコロ艶々の、テニスボールくらいの大きさの可愛らしいブリオッシュをこんもりバスケットに入れて実篤の家へ泊まりに来たくるみに、実篤は「くるみちゃんが作るパンはみんな美味しいけん、大歓迎よ」とにっこり笑った。
実篤は甘いものが苦手だ。
そのことを知っているくるみは、ホイップクリームや生クリームを挟んだ甘いマリトッツォを実篤に食べさせることに大きな抵抗を感じているのだけれど。
移動販売の手伝いにしてもそうだけれど、真剣にパン屋業を頑張るくるみを、実篤は色んな形で支えたいと常日頃から思っている。
だから例え苦手な甘いものを食べなくてはいけないとしても、くるみの試作に付き合うことに対して、苦痛なんて感じたことはない実篤だ。
だが、くるみとしては申し訳なさがどうしても拭えないらしい。
シュンと萎れるくるみに、
「俺、くるみちゃんの家族になりたいって言うたじゃん? 亡くなったくるみちゃんのご両親だって、くるみちゃんがこうやって作った試作品、喜んで食べてくれよったんじゃないん?」
自信満々に言ったら、くるみがコクッとうなずいて瞳を潤ませる。
実篤はくるみの小さな身体をギュウッと腕の中に抱き締めると、「俺も同じ気持ちよ?」と彼女の柔らかい髪の毛に口付けを落とした。
きっと両親を亡くして以来、実篤が知らないところで、くるみは頼れる人を見つけられないままにずっと一人で頑張って来たんだろう。
小悪魔の癖に、未だに肝心なところでは甘えるのが下手くそなくるみのことを、実篤は心の底から愛しい、守ってあげたいと思って。
「俺、くるみちゃんのためじゃったらケーキのホール食いだって余裕で出来るで?」
クスクス笑いながら言って、腕の中のくるみに、「うち、ケーキ屋さんじゃないけん」と微笑まれる。
さっきまでしょぼくれていたくるみが、ほんのちょっぴりだけど笑顔になってくれたことが実篤にはとても嬉しかった。
キッチンで二人、朝食の支度をしながら実篤はすぐ横に立つくるみに声を掛けた。
「生クリームは無理でもホイップクリームなら常温でも割と大丈夫そうよね」
今朝はくるみが持ってきてくれたブリオッシュをサンドイッチにして食べようと言う算段になっている。
具材は卵やハムやチーズなどアレコレ用意してあったけれど、手始めにオーソドックスなクリームたっぷりのマリトッツォにチャレンジしてみたいと思ったのは当然と言えた。
普通のパンより砂糖や卵の割合が多い、フランスではリッチな菓子パンとして扱われるブリオッシュで出来たマリトッツォを、くるみは同窓会の席で試食して帰って以来アレコレと試行錯誤の真っ最中。
「何かうちの実験に付き合わせるみたいになってしもうてごめんなさい」
コロコロ艶々の、テニスボールくらいの大きさの可愛らしいブリオッシュをこんもりバスケットに入れて実篤の家へ泊まりに来たくるみに、実篤は「くるみちゃんが作るパンはみんな美味しいけん、大歓迎よ」とにっこり笑った。
実篤は甘いものが苦手だ。
そのことを知っているくるみは、ホイップクリームや生クリームを挟んだ甘いマリトッツォを実篤に食べさせることに大きな抵抗を感じているのだけれど。
移動販売の手伝いにしてもそうだけれど、真剣にパン屋業を頑張るくるみを、実篤は色んな形で支えたいと常日頃から思っている。
だから例え苦手な甘いものを食べなくてはいけないとしても、くるみの試作に付き合うことに対して、苦痛なんて感じたことはない実篤だ。
だが、くるみとしては申し訳なさがどうしても拭えないらしい。
シュンと萎れるくるみに、
「俺、くるみちゃんの家族になりたいって言うたじゃん? 亡くなったくるみちゃんのご両親だって、くるみちゃんがこうやって作った試作品、喜んで食べてくれよったんじゃないん?」
自信満々に言ったら、くるみがコクッとうなずいて瞳を潤ませる。
実篤はくるみの小さな身体をギュウッと腕の中に抱き締めると、「俺も同じ気持ちよ?」と彼女の柔らかい髪の毛に口付けを落とした。
きっと両親を亡くして以来、実篤が知らないところで、くるみは頼れる人を見つけられないままにずっと一人で頑張って来たんだろう。
小悪魔の癖に、未だに肝心なところでは甘えるのが下手くそなくるみのことを、実篤は心の底から愛しい、守ってあげたいと思って。
「俺、くるみちゃんのためじゃったらケーキのホール食いだって余裕で出来るで?」
クスクス笑いながら言って、腕の中のくるみに、「うち、ケーキ屋さんじゃないけん」と微笑まれる。
さっきまでしょぼくれていたくるみが、ほんのちょっぴりだけど笑顔になってくれたことが実篤にはとても嬉しかった。