社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
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 五月十九日(くるみの誕生日)

 実篤(さねあつ)は、バースデーケーキの入った小箱と、冷えたシャンパンを持ってくるみの家を訪れた。
 たまたまその日は火曜日で、翌日水曜日が二人とも休日だったから。
 当然泊まる気満々でチャイムを鳴らした実篤だ。

 ちなみに宿泊用品に関しては、いちいち持って来なくてもくるみの家に常備してあるから必要ない。


「実篤さんっ、お待ちしちょりました」

 チャイムを鳴らしたのとほぼ同時。玄関の引き戸がガラガラッと開かれて、エプロン姿のくるみがヒョコッと顔を覗かせる。

 下手したらチャイムを鳴らすまでもなく扉が開いたのではないかと言うタイミングで、実篤はちょっぴり驚いてしまった。

「く、車の音がしたんで見切り発車で出て来ちゃいましたっ」

 実篤の戸惑いを感じたのだろう。
 くるみが照れたようにはにかむから。

 実篤はケーキが入っている箱を持っているのも忘れて、思わずくるみを腕の中に閉じ込めた。

「ひゃっ。あのっ、実篤さっ、ケーキっ」

 そこで慌てたようにくるみに言われてハッとしたのだけれど。

「中身、倒れたりしちょらんですかね?」

 ソワソワと心配そうな顔をするくるみに、実篤も色んな意味でドキドキしてしまう。

(ヤバイ。今日もくるみちゃん、可愛すぎじゃろ)

 とりあえず、と玄関先で靴を脱いで、実篤のために用意された《《大きめ》》のスリッパをはく。

「スリッパ、変えてくれたんじゃ」

「はい」

 実篤が初めてここへ来た十五夜の夜、くるみに出されたのは(かかと)が落ちてしまうほど小さなサイズのワンコのモフモフぬいぐるみ風スリッパだった。
 けれど、いま実篤が履いているのは、オオカミの顔デザインの灰色モコモコ仕様。
 サイズも実篤に合わせてちゃんと大きめで、しっかり足を包み込んでくれている。
 そうして何を隠そうこれ、裏面がモップになっているお掃除スリッパなのだ。

 くるみもピンク色のウサギタイプの同じスリッパをはいているのだが、こちらはくるみの足に合わせて小さめサイズになっている。

 これ、実はどちらも今日おろしたてホヤホヤのスリッパだったりする。
 というのも――。

「実篤さんからの誕生日プレゼント、実用的で気に入っちょります」

 本当は、くるみの分だけと思っていたのだけれど、くるみが「いる(モン)ですし、せっかくじゃけぇお揃いがええです」とニコニコするので、どちらも彼女に選んでもらって、通販サイトMitsurinの実篤アカウントの買い物かごに放り込んでもらった。

 結局今日に間に合わせたかった結婚指輪は、デザインからこだわったオーダーメイド品にしてしまったため、納期に時間がかかると言われて持参できなくて。

 結果として、くるみからは何個もプレゼントはいらないと釘を刺されていたけれど、スリッパ(これ)を買ったのは良かったんじゃないかと思った実篤だ。

 くるみも、アクセサリーみたいに値が張るものじゃない生活雑貨だったからか、案外すんなり実篤の提案を受け入れてくれた。
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