社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
***

「家やら車やらはダメになったですけど……仏壇だけでも何とかなりそうで()かったです」

 くるみが言ったように、高い所に置かれていた仏壇は思ったほど浸水しておらず、下段(げだん)(膳棚)から下を取り換えてダメになった仏具を買いそろえれば大丈夫そうだった。

 それを確認した実篤(さねあつ)は、すぐに仏壇屋に修繕を手配したのだけれど。

 仏壇を引き取ってもらって由宇の家へ戻って来た時、両親の位牌(いはい)と遺影の前にちょこんと座って実篤を見上げて、くるみが淡く微笑んだのが、実篤にはたまらなく辛かった。

「くるみちゃん、俺の前では無理して笑わんでもええんじゃけぇね?」

 くるみにとって、パン作りはある種の生き甲斐だったはずだ。
 その機材も、それを売り歩くための愛車(パートナー)も、そうして生まれ育った家さえも酷い有様になってしまったのに。
 仏壇が無事だから良かっただなんて割り切れるわけがないではないか。

 くるみを(いた)わるように彼女の前でひざを折った実篤に、
「実篤さん……うち……」
 くるみがギュウッとしがみ付いてきて声を震わせるから……。
 実篤はそんなくるみを腕の中にしっかりと抱き締めた。

 くるみの実家の台所に、彼女の成長記録を刻んだと(おぼ)しき柱があったのを覚えている実篤だ。

 ああいう思いが詰まったものを、心の中から切り捨てるのは難しい。
 ましてやくるみはそれをしてくれた両親を失っているのだから尚更だ。

 御庄(みしょう)のくるみの家は修繕費も建て替え並みに莫大にかかるし、また大水が出たら同じ(てつ)を踏み兼ねない。
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