社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「今回は巻き込まれたのがうちだけじゃったけぇ良かったですけど……もし子供が出来て……その子らが(おんな)じ目にって考えたら怖いけん……」

 ――あの家を直すのもあの家に住むのも諦めます、とくるみが言うから……実篤(さねあつ)御庄(みしょう)の家を修繕することをひとまず諦めたのだけれど。

「くるみが本当(ホンマ)に望むんじゃったら……俺、いくらでもあの家を元通りに直すよう、手配出来るんじゃけぇね?」

 ことある毎に実篤が何度言っても、くるみは(かたく)なに首を縦に振らなかった。

 ばかりか――。

「うちね、あの台風の日、実篤さんが家に入って行ってくれて……お父さんとお母さんの位牌(いはい)と遺影を持って来てくれた時、すごい嬉しかったん。じゃけど――」

 それと同時に実篤まで失ってしまうんじゃないかと言う恐怖に襲われたのが忘れられないのだとくるみは続けた。

「あれもこれも自分では上手に(うもぉー)守られんのんじゃったら、うちは何が一番大事なんかちゃんと見極められる人間でおりたい」

 ――ハザードマップに赤で記載されるような危険区域にある以上、あの家にはもう住まれん。

 そう言って実篤を見詰めてきたくるみの目は、少し涙で潤んではいたけれど強い光を宿していて。

 実篤は「分かった」と引き下がったのだ。

 だけど――。
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