社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「ねぇくるみ。うちの事務所の近くにね、元々パチンコ屋があったところを売りに出しちょる広い空き地があるんじゃけど……。俺ね、そこを買おうと思うちょるんよ。――今度一緒に見に行かん?」

 麻里布町(まりふまち)は商業地域だ。土地の用途制限があったりするが、実篤(さねあつ)が目星を付けている土地は店舗付き住宅などを建てるのには問題のない場所だ。

「土地?」

「そう、土地」

 実篤は不動産屋を営んでいる身。
 
 以前父親から『不動産屋の経営者らしく(らしゅう)中心部の方へ良い(ええ)物件見つけて新たに(きょ)を構えようとは思わんのか?』と聞かれたのを覚えている。

 御庄(みしょう)の家を修繕しないとくるみが断言するのなら、今こそそれをする時だと思って。

「実はね、クリノ不動産をそっちへ移転しようと思うちょる」

「事務所、移転されちゃってんですか?」


 場所的には今のクリノ不動産から徒歩数分圏内。
 だが、JR山陽本線の岩国駅へグッと近付くので、車を利用出来ない客の来店も今よりたくさん見込めるはずだ。

 そうしてそれは、不動産屋としてのクリノ不動産のメリットと言うよりも――。

「うん。ほいでね、折角じゃけ、うちの事務所の一画に、パン屋さんも一緒に組み込もうって思うちょるんよ」

 そこへ、一階は店舗、二階、三階は居住スペースになった店舗付き住宅を建てるつもりの実篤だ。

 そうしてその時に――。

「新しい建物(たてもん)を建てる時にね、一緒に御庄(みしょう)の家を《《解体》》しようとも思うちょるんじゃけど……《《くるみ》》、耐えられそう?」

 実篤をじっと見上げてくるくるみの手をギュッと握ると、実篤はあえて彼女を呼び捨てにしてそう切り出した。
< 386 / 419 >

この作品をシェア

pagetop