社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
「えっ」

 くるみはあの家にはもう住まないと明言した。
 ならば、と思ったのだ。

「やっぱりイヤ?」

 実篤(さねあつ)が真剣な目で問えば、くるみがオロオロと瞳を揺らせる。

 傾いていてボロボロのままとはいえそのままそこに在り続けるのと、全くもって形を失くすのとでは、心にかかる負荷が全然違うはずだ。

「直さんまんまじゃったら……家、傾いちょるし……危ないじゃろ? 倒壊とかして誰かが巻き込まれたりしたら大事(こと)じゃ? 直す気がないんじゃったら更地にしてしもうた方がええと俺は思うんよ」

 言いながら、実篤は自分はなんて酷いことを言っているんだろうと胸が痛んで。

 でも、これをくるみが承諾してくれなければ《《次の段階に進めない》》のだ。

 ある意味実篤はくるみの覚悟を推しはかりたいと思って。

 実篤に握られた手へギュッと力を込めると、くるみが一度だけ下を向いて……しばらく考えてから「耐えられます」とハッキリと告げた。

 実篤はその言葉を聞いてグッと奥歯を噛みしめると言った。

「分かった。ほいじゃあ、土地を買ってアレコレ動き始めたら……御庄(みしょう)の家は取り壊すね」

 くるみが実篤の言葉にコクッとうなずくのを見て、実篤は泣きそうな顔をしたくるみをギュウッと腕の中に抱き締めた。

 ――くるみちゃんが覚悟を決めてくれたんじゃけぇ、今度は俺が男を見せる番じゃ。

 そう思いながら。
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