社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
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 実篤(さねあつ)が買った土地は、元あったパチンコ屋自体が駐車場なしの都市型店舗だったため、広さはおよそ三百坪。
 つい店舗付き住宅を建てるだけにしては広すぎるように思えたけれど、自分とくるみの愛車用の車庫を建てたり、客用の駐車場や倉庫を置くスペースなどを確保することも考えたら、それほどだだっ広いと言うわけでもなくて――。

 実篤とくるみは、そこに木造と鉄筋コンクリート造が混在した、立面混構造(りつめんこんこうぞう)の三階建てを建てることにした。
 要は一階を鉄筋コンクリートに、二・三階を木造にした形だ。

 一階部分は『クリノ不動産』と『くるみの木』の販売スペース及び従業員たちの休憩室。それプラスくるみがパンを焼くための調理場などを設ける設計になっている。

 二階・三階部分はくるみと実篤(さねあつ)のプライベートスペースだ。

 今までバリバリの日本家屋感満載の平屋に住んでいた二人にとって、三階建てと言う縦方向に長い洋風の建物はかなり新鮮で。

「エレベーターも付けた方がええ思うんじゃけどどうじゃろ?」

 実篤が言ったら、くるみが目をぱちくりさせた。

「自宅にエレベーターですか?」

 たくさんの荷物を持ってくるみがええっちらおっちら階段を登ることを考えたら、それは必須に思えた実篤だ。

「前に芸能人の方が自宅のエレベーターはほとんど使わんって話していらした(言うちょっちゃった)の、うち、テレビで観ましたよ? 定期的なメンテナンスやらランニングコストもバカにならん言いますし、なくても大丈夫でしょう?」

「じゃけど荷物多いときとかくるみちゃんの細腕で上まで持って上がるん大変よ?」

「うちには実篤(さねあつ)さんがいて下さる(おってくれちゃって)じゃないですか。もしもの時はちゃんと頼りますけぇ」

 そんな感じで結局エレベーターは却下されてしまったのだけれど。実篤は密かにもしもの場合は後付けも出来るかと思っていたりする。

 そんなことよりも――。

「キッチンん横のここへパントリー作るんは反対せんよね?」

 一階のパン作りのための厨房とは別に、二階には栗野家(くりのけ)としてのキッチンを作る予定だ。

 台所に立っていてもリビングの方が見渡したいと言うくるみの要望で、アイランド型にしようということになっているのだけれど、そのシステムキッチンの左手奥のスペースをパントリーにしたいと実篤が言って。

 くるみは実篤が見せてくれた設計図を見てそこはこくりとうなずいた。

「食材やらのストックもそうですけど……フライパンやらお鍋やらって結構かさばるけん、そういうのをキッチン周りの収納とは別に仕舞えるスペースがあるんは嬉しいです」

 台所は言うなれば料理好きなくるみのお城だから。

 ニコッと微笑んだくるみを見て、実篤は《《ずっと考えていたこと》》を実行に移すならこのスペースだな、と思った。
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