社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
 今日は商工会主催の『岩国祭(いわくにまつり)』の実行委員側として参加していた実篤(さねあつ)は、分かりやすく商工会のロゴ入りの法被(はっぴ)を羽織っていた。

 ついでに言えば、〝先程騒動を収めるため〟にこの場に分け入った時にも「運営側の者だ」と告げて人混みをかき分けた。

 彼女はそれら諸々をかんがみて、実篤(さねあつ)に気を遣ってくれたらしい。

「の、残りもので申し訳ないんですけど。良かったら……えっと……食べられてんないですか?」

 どうぞ、と再度前へと差し出された透明なビニールの中には、細長い巻き貝みたいなツヤツヤ小麦色のパン。その真ん中には、通常より暗めな色合いのチョコクリームがギッシリ詰まって見えた。

「――あ、じゃけどっ」

「もちろんお礼ですけぇお代は要りませんよ?」

 そう小首を傾げられて、実篤(さねあつ)は「どうしたものか」と弱ってしまう。

 実篤(さねあつ)、実は甘いものが余り得意ではない。

 惣菜パンならまだしも、チョココロネと言えば甘い甘い菓子パンのレギュラー陣のような存在に思えた。
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