初恋は、君の涙に溶けていく
八尋に失恋してからの私は、受験勉強に没頭した。

自分の実力よりも少し偏差値が高い、私立のT高校を第一志望にしてたから、そろそろ必死で勉強しないとまずい時期になってたし。

中学三年生の冬に、失恋して落ち込んでいる暇なんてないんだ。

……というのは建て前で、本当は受験勉強を口実にして八尋と少し距離を置きたかっただけだ。

失恋してしまったことに関しては、自分の中でちゃんと納得してるから、八尋に対して恨むとかそういうネガティブな感情は一切無い。

だけど、完全にノーダメージという訳じゃないから、これからどんな顔をして八尋と話せば良いのかわからなくなった。

二人きりで話をしたら、またあの時のことを思い出して泣いちゃうかも、っていう不安もあるし。
そんなのみっともないから絶対に嫌だ。

だから、今の私は受験勉強を理由にして八尋を避けている。
あれ以来、放課後のお喋りも一度もしていない。

前みたいに八尋と笑顔で、くだらないお喋りを出来るようになるまでには、あともう少しだけ時間が欲しいんだ。

(……本当に元通りの関係に戻れるの?)

気持ちが落ち着いて、前みたいな関係に戻れたとして、私は『八尋の親友』に戻って、満足できるのかな?

心の底の方からは、そんな声が聞こえて来るけど 。

私は勉強に集中することで、それを無視した。



< 12 / 35 >

この作品をシェア

pagetop