初恋は、君の涙に溶けていく
私と二年に一度のペースで同じクラスになっているということは、里穂も八尋とクラスメートになったことがあるということだ。

まぁ、だからといって里穂と八尋は別に友達じゃないから、接点なんてほとんど無いんだけど。

それでも、なんとなくは八尋のことを知っているはずだから、私と八尋の両方を知っている里穂なら失恋話の相手にはちょうどいいかな、と思ったんだ。

だから、一緒に図書室にやって来て、鞄から取り出した問題集を机の上に並べ始めている里穂に、

「あのさ、この前、八尋に告白して振られたんだ」

って言ってみた。

あんまり重く受け取られないように、さり気ない口調で言えたと思う。

その時の里穂のリアクションは、

「ふぅん」

と興味なさげな一言だけ。

その後は、広げた問題集に視線を落としてひたすらペンを動かしていた。

しばらく待ってみたけど、それ以上、話が続く気配はなかった。
 
放置された私は仕方なく、自分の問題集を取り出して、ちょこちょこと苦手な数学の問題に挑戦することにした。

だって、図書室で勉強している受験生に「もっと私の失恋話を聞きなさいよ!」なんて催促出来ないから。

それに私も一応受験生だし。

そしてそれから、たっぷりと一時間後。

10ページ分の問題を解き終えた里穂は、不意に顔を上げて、

「それで?藤井八尋がどうしたって?」

と言ったのだった。

昔から里穂は極端にマイペースな性格だ。

常に自分の立てた完璧な計画を最優先にして、無駄な割り込みは絶対に許さない。

今回も私の失恋話に興味がなくて放置したんじゃなくて、今日の図書室でやる問題集のノルマを優先したのだろう。

そして、それが終わったから、今度は話を聞かせなさい、という訳だ。

長い付き合いなので、それくらいは解るけど。

友達が失恋したんだから、もう少し気を使ってくれても良いと思うよ。

< 15 / 35 >

この作品をシェア

pagetop