初恋は、君の涙に溶けていく
マイペースすぎる里穂に少しだけ抗議の気持ちを込めた視線を送りながら、私は改めて自分の失恋話を里穂に打ち明けた。

告白の時の様子をあんまり詳しく話すのは恥ずかしいから、簡潔な内容だけ。

私の方から告白したことと、八尋に好きな人がいるからごめんね、って断られたこと。

それだけを話した。

里穂は相づちも打たずに、黙って最後まで聞き終えると、感想を一言だけ。

「ざまぁ、ってやつよね」

と呟いた。

「ひどいよ!」

あんまりの言いぐさに抗議すると、里穂は唇の前に人差し指を当てて「お静かに」というジェスチャーをした。

そうだった。

私達は図書室にいて、周りは皆、受験勉強中だった。

私は非難の視線を向けてくる周囲の人達に両手を合わせて「ごめんなさい」のポーズを取りながら、頭を下げて謝る。

一応、端っこの席で、小さな声で話していたつもりだったけど、つい大声を出しちゃった。

その元凶である里穂は、私が謝っている隙に、何も言わずに私が解いていた問題集を取り上げて、赤ペンで添削を始めていた。
 
恨みがましく唇を尖らせている私を無視して、問題集の余白に数式の解き方やケアレスミスの指摘をサラサラと書き込み終えて、パタンと閉じると、「はい」って渡される。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

里穂は握っていた赤ペンをペンケースにしまうと、そのまま手早く帰り仕度を済ませて立ち上がった。

「じゃあ、私は帰るけど。七花はどうする?」

もう。

本当にマイペースなんだから。

私は、まだ机の上に広げたままの自分の荷物を急いで片付けて、里穂と一緒に帰ることにした。

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