初恋は、君の涙に溶けていく
「私はもう失恋したくせに、ぜんぜん八尋のこと諦めきれない。八尋が他の人のことを好きでも諦めたくない」

里穂は私を抱きしめてた手をほどいて、また私の頭を優しくぽんぽんと叩いた。

「とりあえず受験がんばろう? いっぱい勉強教えてあげるから。T高校行くんでしょ?」

「…………うん」

私がT高校を志望している理由。

それは八尋が秋に推薦入試でT高校に合格してたから。

八尋と同じ高校に通いたくて、自分の成績より上のT高校を受験することにしたんだ。

失恋したから、もうT高校には行かなくてもいい。

そう思ったこともあったけど…………。

やっぱり八尋と離れたくない。

彼女になれなくても八尋の近くにいたい。



さっきまで聞こえていた部活動の掛け声も、いつの間にか、消えていた。

私と里穂は手をつないで校門まで歩いて、そこでまた一緒に勉強する約束をして別れた。

1人で歩く帰り道の中で頭の中に思い出すのは里穂の言葉。

『藤井は七花のこと好きだよ』

八尋が他の人を好きなことはわかってる。

それでも、もし1%でも八尋の中に私を好きな気持ちがあるのなら。

それは、ほんの少しの勇気になる。

失恋した私がまだ八尋のことを
好きでいても良い理由になるのかもしれない。
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