初恋は、君の涙に溶けていく
『まもなく発車します』
ようやく運転手さんの声が車内に響いて、開けっ放しだったドアが、ぷしゅー、と閉まる。
……と思ったら、もう一度、ぷしゅー、と開いた。
ドアの方に視線をやると、開いたドアから男子生徒が一人、乗り込んで来た。
はぁはぁと軽く息を切らしてる。
ああ、この人が走ってきたから、もう一度ドアが開いたんだな。
なんてぼんやりと思っていたら、その人はガラガラに空いている車内を真っ直ぐに歩いて、私の座っている席の前までやってきた。
え?
なに?
私はその人の顔をちゃんと見ていなかったから、完全に油断してて、びっくりした。
嘘。
何が起こったか分からない。
人間って、突然奇跡に遭遇すると、頭が働かなくなるんだ。
「……隣に座ってもいいかな?」
少し不安げに問いかけられた声は、私がよく知っている声だった。
久しぶりに聴く声。
穏やかで優しい響きの、私が大好きな人の声。
…………嘘みたい。
ずっと会いたかった八尋が目の前に立っていた。