初恋は、君の涙に溶けていく
「ど、どうぞっ」

ガチガチに緊張した私の声は、信じられないくらいに上擦っていた。

慌てて座席に置いていた鞄をどけて、隣の席を空けたけど。

私の馬鹿。

何が「どうぞ」よ。

なんでそんなに他人行儀なの?

昔だったら気軽に「やっほー」とか言って、当然のように隣に座ってたのに。

「あ、あの、ここに座る?」

とか、わざわざもう一度聞き返したりしちゃって、まるで八尋が隣に座るのが嫌みたいに聞こえてるかもしれない。

違うのに。

やっと会えて、嬉しくて。

隣に座って欲しいのに。

焦りすぎてて、思ってるのとぜんぜん違う言葉しか出てこない。

振られたんだから、もう八尋とは仲良くしたくない。

そんな風に思ってる、って誤解されてないかな。

完全にテンパってて、私はもう半泣き状態だ。

「うん、ありがとう。七花」

それなのに、八尋は私の挙動不審な態度とか全く気にしてない感じで、すんなりと私の隣の席に腰を下ろして、くすりと笑った。

「久しぶりだから、少し緊張したけど七花がいつも通りで安心した」

私の好きな八尋の微笑み。

ふわり、とした微笑みは太陽みたいに優しくて。

私の心を安心させてくれる。

ああ、いつもの八尋だ。

と思った。

この人は、私がどんなにテンパって、意味わからないことを言ってても、絶対に誤解しないで、私の言いたいことを理解してくれるんだ。

いつだって、そうだった。

だから、好きになったんだ。

そう思ったら、途端に心が落ち着いて、私は数ヶ月の空白期間なんて無かったみたいに、八尋の親友だった頃に戻れた気分になる。

「いつも通りってどういう意味よー?」

テンパってた恥ずかしさを隠すために、わざとおどけて、そんな風に聞き返す。

「元気で、感情が豊かで、考えてることが丸わかりな感じだよ」

八尋も、私に調子を合わせて、そんな返事を返してくる。

うん、もう大丈夫。私は昔みたいに話せてる。

「じゃあ、私が何を考えてたのか当ててみてよ」

「たぶん、久しぶりに会えて嬉しいと思ってくれてた。僕が七花と会えて嬉しいと思ったのと同じくらいに」

途端に頬が赤くなっていくのを自覚する。

そうなんだ?

八尋は私に会えて嬉しいんだ?

私は八尋に振られたけど、まだ八尋にとって会えて嬉しい人なんだ?

「当たってる?」

「まぁね」

八尋に訊かれて、そんな風にまたおどけて返事をしたけど。

違うよ。

本当は不正解。

だって、会えて嬉しい気持ちは同じくらいじゃない。

絶対に私の方が勝ってる。

だって、私はあなたのことが好きなんだから。

好きで、好きで、大好きで。

失恋したのに、諦めきれずに同じ高校まで追いかけてきたんだから!

私の方が絶対に嬉しくて、幸せなんだよ。









< 32 / 35 >

この作品をシェア

pagetop