恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「なんで!?」



我に返り,結局思い通りにはなってくれない愛深。

それでも病人と我慢したのか,頭に響かないよう,出来る限りの小声だった。

必死な愛深の声は,抑えきれない疑問のせいで悲痛にも似たもので。



「なんでもなにも,こうしなきゃ愛深が座れないでしょ」



違う?

そう,ぐるんと首を回す。

だってこうでもしないと,愛深,ここにいてくれないでしょ。

さも当然のような顔をすると,納得できない瞳で動揺した愛深が,ぎゅっと目をつむった。



「いや? ……それとも帰るの?」



膝枕なんかじゃ足りない?

他にどんな口実があれば,愛深はここにいてくれる?

まさか,本当に帰ったりしないよね?

そんな言葉の一つ一つを隠すと,自然と責めの声色と視線になった。

こんなの,ただの駄々こね以外にどう映るんだろう。

……かっこわるい。

俺は,回した首をもとに戻して,自分の顔を隠した。




「……ううん。帰らないよ」



何を感じたのか,愛深は呟くような声で,優しくそう落とす。

ほっとしたことに気付かれたくなくて,俺は返事をしなかった。


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