恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「仏壇,見た?」



どこから話そうかと考えると,どうしてもきっかけの話に行き着いてしまう。

けれど,それを抜きに話すことはとても出来そうになくて。

最初から,愛深には重たい言葉になってしまう。



「うん……でも,矢島さんのところに行ったときから,そんな気はしてた」



そうだよ,だってそれは,真島のおっさんが敢えてそうしたんだから。

興味本意に尋ねられるのも,何も知らず同情されるのも。

俺に合う人ではないって,勝手に心配されたから。

本当に,余計なお世話だった。



「知ってる。でも,愛深は聞かなかった」

「聞いて欲しかった?」

「いや,聞かないでくれて助かった」



ぼそぼそと,肩をくっつけて話す。

本題に入るための,準備みたいな会話。

本音を溢す度に,取り返したくなるほど胸が痛む。

この続きが,何より俺に辛い。

散らかっている部屋の中で,唯一綺麗な空間にある仏壇。

遺影に写る,俺とよく似た若い男は



「俺の,父さんだよ」



やっぱり,と。

愛深は悲しげに微笑んだ。



「まぁ,俺が5つの時の話で,俺はあんまり気にしてないんだけど」



そう,俺は。

この言葉に,今の状況全てが詰め込まれている。


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