恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「事故だったって。俺だって悲しかったけど,若かったから,母さんの方がひどかった。そんな母さんに,子供らしく俺がいるなんて言葉,かけられなくて,変わりに出たのはいつも大丈夫? だった」



言葉は,誰がどんな意味のどんな言葉を,いつどんなつもりで使うのか。

全てに気を使わなくちゃいけない。

同じ言葉も,性別年齢関係性が少しでも違えば,他人と違うように聞こえる。

だから,小さかった息子の俺が,母を想って,更には心配して。

そんな言葉をかけちゃいけなかった。

どこの母親が,守るべき頼りない対象として,心配をかけちゃいけないと思う相手に対して,素直に大丈夫じゃないなんて言えるだろう。

俺はただ,母さんを追い詰めただけだ。

母さんはたった一人,将来まで誓った愛する人を失ったばかりだったのに。



「どう見ても大丈夫じゃなくて,それでも必死に俺の母親をしようとしてくれてたのに,俺はそんな言葉で母さんを追い詰めた。今でもよく,母さんは仏壇の前で泣いて,そのまま寝てることがあるんだよ。あの時から,ずっと」



俺の救えなかった,支えられなかった母さんが今もまだ,ずっと1人で泣いている。



「部屋,ちらかってるでしょ」

「そうだね。とても」



簡素で正直な愛深の言葉が,俺の心を少しだけ明るく癒してくれた。
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