恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「たまに引っ張り出してはこうして散らかす」



それを,片付けるのが,何も出来ない俺の唯一の仕事。

何も考えず,1つずつしまっていくのは,案外神経を削るものだった。



「でも,洗濯はしてくれるし,食費もくれるし,ごくたまに思い出したみたいに味噌汁も作ってくれるから,普通に生活出来てる。ただ,お金なんて無限にあるわけじゃないから,俺はずっと怖い」

「うん…」

「祖父母も,興味がないのかなんなのか知らないけど,父さんの葬式以来あってなくて,顔も覚えてない。だから,今の母さんを支えているものは何一つない」

「うん」



堰を切ったように話す俺に,愛深は聞いてるよと相槌をうつ。

それが現状の何を変えてくれるわけでもないけど,無くてはならない存在だった。



「なのにこの歳になっても,母さんに何一つ言ってあげられないのが嫌だ」

「うん。悲しいね」

「昔の母さんも,今の母さんも,何一つ捨てられなくて,向き合えないのが嫌だ。弱くて,こんな風に愛深に頼って,なにも出来ないのが嫌だ。嫌だといいながらなにもしない自分が嫌いだ」



少し,声が震える。

俺が1番嫌なのは,俺が1番嫌いなのは,俺が1番叫びたくなる現実は。

全部,俺自身なんだ。
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