恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「手紙を書きたいなら持っていく。言いたいことがあるなら伝えてあげる。怒りたいなら,責めたいなら私がそうする。なにも捨てられないのは,暁くんが優しいからでしょ? それは弱さじゃない。でも,それを暁くんがが望んでないなら,私が全部代わりにしてあげる」



俺が,出来ないこと。

でも愛深の引き受ける行動全ては,同時に



「暁くんはそれも望まないね。別に,なにもしなくて良いんだよ。私が逃げ場になってあげる。どうしても優しくいるのが辛くなったとき,頼って? それが私の,踏み込んで傷つける勇気の形だから」



俺の,選ばないこと。

愛深に任せるなんて,絶対にしたくない。

そう思った俺を引き継ぐように,愛深は声量を落としていった。

俺の,出来ないこと。

俺の,本当にしたいこと。

愛深は何もかも,分かってる。

踏み込んで傷つける,勇気の形。

愛深は真面目に,そんなことを考えていた。



「……何,それ。…ごめん。絶対見せたくないから,肩かして」



膝の次は肩。

情けないと思いながらも,背に腹は代えられず。

泣いてる姿なんて見られたくなくて,鼻を啜るのも我慢して,愛深の肩に顔をうずめた。

それを無理に引き剥がして顔を見ようなんて,愛深も思わない。

けれど,突如。

どこから来た接続の言葉なのか分からないことを,愛深は口にした。



「だから,私の考え方はきっと間違ってないけど,私みたいな甘言ばかり吐く女に引っかけられちゃだめだよ?」



難解なその言葉は,理解するのに数秒を要した。

愛深は,俺になにもしないでいいんだって言ってくれて。

だけど,それでは進展なんてあるはずもない。

それは今までの生活で証明されている。

だから,愛深の言葉は甘言になり,間違ってないけど正しくない。

そう,愛深は判断したと言うこと。

でもね,愛深



「……だからってなに,それに,何かするもしないも俺次第だから」



それは俺が決めること。

愛深はただ俺を支えてくれただけで,その言葉の先に俺が何をしようと,それは俺の決断。

愛深は,そんな風に考えなくても,関係ないんだよ。



「……うん。そうだね」



それは,もちろんそうだよ,とでも言うように,簡単に頷いてしまう愛深。

その様子は,まるで自分が悪い影響を及ぼす何かの様に,俺を諦めて見える。

だから,こんな女に引っかけられるなと丁寧な言葉を寄越す。

こんな風に,俺を肯定してくれておいて。



「ねぇ,絶対分かってないよね?」



そんなの,許さないよ,愛深。

だってもう,手遅れだから。

ぐいっと愛深を引き寄せて一瞬。

ふにゅっと,唇に柔らかい感触がした。

それはきっと,愛深も同じことだろう。

やったことなんて無かったけど,これは失敗ではないはず。



「ぇ、えぇ??」

「だから,ありがとってこと」



突然のことで,愛深の許可なんてもちろん取ってない。

言わずもがな,愛深もファーストのはずなのに,その反応が怒りでないことに安心する。

ここで戸惑うだけなんて,いつも通り愛深が過ぎる。

愛深がごちゃごちゃと余計なことを言うから,だから,俺は手っ取り早く黙って貰っただけ。

いい加減,俺を見て。

俺は愛深の全てを遮るように,愛深を強く抱き締めた。



「本当に,ありがとう……」



その声は意図せず震えて,息の熱さと共に敏感に感じ取った愛深は,ピタリと動きをとめた。

そして,俺を緩く抱き締め返す。

宥めるような優しいハグに,俺達はほんの数分だけそのままでいた。

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