恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「ぉうわ!?」

「え」



愛深が俺の名前を呼ぶように振り返った。

それも当然だと思う。

ガタッと音を立ててまで,俺は立ち上がると健の首根っこを掴んで後ろに引いていた。



「なっなんだよ」



なんだも何もない。

理由なんて無い。



「……よろしく健」



ただ距離が近かった。

それだけ。



「そんな挨拶の仕方ある?」



呆れたようにため息をつかれても,無視させて貰う。



「集会だって,早く行くよ」



それだけ返すと,俺は健を引きずるように立たせた。



「あっ私も」



弘と愛称の良さそうな健は,後で弘に引き渡そうと思う。

俺は俺の列の1番後ろにいる弘をチラリと見て,めんどくさいとため息を吐いた。



「暁くんの後ろ。誰なんだろうね」



横にならんだ愛深が,気になるようにすっからかんのその場所を見る。



「遅刻か欠席か転校生でもくるんじゃねぇ?」



ひょっこりと顔を出した健は,そんなことを言った。

もっとも,それは適当についた冗談のようで。

健は直ぐに興味を無くしたように話題を変えた。


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