恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
ーガラガラガラ



「失礼し……あ」



転校生は何故か愛深だけを見て,言葉を止めた。

嫌な予感がする。

愛深も真っ直ぐ注がれる視線に気がついて,何故かそわそわと服装をチェックし始めた。

転校生は先生の制止も聞かず,視線をはずしていた愛深の前に来る。



「えっなに,なに」



突然現れたわけの分からない男子に,愛深は怯えるように困惑を口にした。

俺も注視していると,転校生は愛深の前まで来てニパッと笑う。



「ねぇ,愛深でしょっ。久しぶり! 適当にこの学校に決めて良かった!」



……なっ……

一息で紡ぎ,誰がとめるより早く転校生は愛深に抱きついた。

飛びかかった勢いのまま,力強く抱き締める。

俺が,クラス中が目を丸くしていると,当の愛深は特に気にしないようでいて。

呑気に考え事でもするような顔をしていた。

確かに転校生のそいつが何者なのか,確かに気になるのかもしれないけど。

それは今じゃないでしょと愛深に文句が溢れてくる。

転校生の重みに耐えられず愛深が立ち上がると,愛深は驚いた様に目を丸くした。

香った匂いに人間を感じたのか,現実感の沸いた愛深が混乱に目を滲ませる。



「おいちょっ」



担任がが思わずと言うように声をあげると,教室には元気いっぱいの声が響いた。



「天野 慧(あまの けい)です。よろしく」
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